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麻酔科の研修

研修概要

研修の目的

麻酔科の初期研修では、気道確保などの初期救命救急手技だけでなく、生理学や薬理学の知識を活用した超急性期の生体情報の観察と分析、および対処法の基本を修得します。これらは医師として最初の一歩を踏み出すために必須の素養ですが、日常の麻酔業務に真摯に取り組めば必ず身につきます。後期研修では、平成27年4月から麻酔科学会の定めた4年間の専門研修プログラム(後述)が始まります。この研修プログラムを終了した後に所定の試験と評価を受け、麻酔科専門医の資格を取得します。
麻酔は単に患者を眠らせるのではなく、麻酔科研修は単なる手技の修得ではありません。周術期の病態と手術侵襲の影響の理解、長期的予後までを視野に入れた適切な麻酔法の選択と実践、さらに種々の合併症の予防と治療を身につけることが重要です。
近年の内科的治療の長足の進歩と手術術式の改良は、詳細で厳密な術前評価とリスク軽減の対策をますます重要にしています。電子カルテ上の掲示板に掲載した“臨床に役立つさまざまな指標やアルゴリズム”を活用し、指導医との議論を重ねて下さい。

研修の内容

1) 初期研修

  1. 麻酔科専門医の指導下に術前診察と術前評価、麻酔計画の立案と実施、これらの総括としての術後評価をいます。
  2. 気道確保とバッグ・マスク換気を徹底的に訓練し、喉頭鏡の使用による気管挿管に習熟し、ラリンジアルマスクやエアウエイスコープなどの補助器具の使用法を学びます。
  3. 指導医とともに全麻酔の導入、維持、覚醒を行い、自らの五感と各種機器を用いた生体情報の把握と解釈、および超急性期の病態生理の基本を学び習得します。

2) 後期研修(麻酔科専門医研修プログラム)

今までの専門医制度では、認定研修施設に所定の期間所属し、麻酔科医として専従した上で、専門医試験に合格すれば専門医となる事ができましたが、新しい専門医制度では、麻酔科専門医取得の為に、①研修プログラムに参加し、②経験必要症例数をクリアする必要があります。
島田市立総合医療センターの麻酔科は浜松医科大学及び静岡県立総合病院の研修プログラムに関連研修施設として参加しています。本院で不足する領域(心臓外科の麻酔など)は、プログラムに含まれる他施設で研修します。
プログラムの詳細や研修内容は、日本麻酔科学会と日本専門医機構のHPをご覧ください。
以下は現在の本院における後期研修の例です。

  1. 麻酔科専門医の指導のもと、全身状態の不良な患者や大侵襲かつ困難な手術の周術期管理、麻酔法の選択、各種危機管理に習熟し、麻酔科専門医としての基礎を固めます。
  2. 気管支ファイバースコープや経食道エコーなどの機器の使用に習熟し、生体情報の詳細な収集・分析と、生体機能の補助・維持の知識と技術を修練します。
  3. エコー装置をいた神経ブロック法を学びます。
  4. 臨床に則した解剖学、生理学、薬理学を学び直し、より科学的で論理的な麻酔科医療を追求します。
  5. 患者や家族の希望を汲み取りつつ、最も安全で適切な周術期管理を他科他部門と協力して策定する姿勢を育てます。

3) 指導医と症例数

麻酔科の医師紹介のページと統計のページをご覧ください。

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手術件数データのページへ
 

定期カンファレンス

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1) 手術症例カンファレンス:平日の午前8:20頃より予定術患者の提示と検討を行い、その他連絡事項などの情報を共有します。

2) 文献抄読会:重要な書籍や論文(主として英文)を取り上げ、指導医のアドバイスのもとで読み解きます。玉石混合の情報が大量に入手可能な現在、論文の批判的読解力は、臨床医が最善の医療を提供するための不可欠な資質です。現在までに取り上げた書籍は、Clinical Anesthesiology, Miller’s Anesthesia(抜粋)、麻酔科学会(ASA)リフレッシャー・コース (抜粋)、麻酔科学会の教育ガイドラインなどです。

 

その他

麻酔の歴史と医療の進歩

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医療の歴史は苦痛や痛みからの解放の歴史です。臨床麻酔の始まりは1800年代前半(日本では華岡清州が1804年に、米国ではCrawford W. Longが1842年に施行)に遡ります。その後、阿鼻叫喚の様相を呈していた外科的治療が長足の進歩をとげたことは言うまでもありません。それゆえ麻酔は、医療における人本主義(humanitarianism)のシンボルとも言われます。

さる2007年、世界有数の権威を持つ医学雑誌のBritish Medical Journalが各国の医師や研究者に呼びかけ、あらかじめ用意した15項目から1840年以来のもっとも偉大な10の医学的業績(medical milestone)を選びました。意外に思う人も多いのですが、第1位は公衆衛生(浄水と汚水処理)、第2位は抗生物質であり、第3位は麻酔の発見でした(第4位はワクチン、第5位はDNA構造の解明)。しかも第1位の公衆衛生の父とも呼ばれるSir John Snowは、英国麻酔科医の先達でもあります。

このように、近代医学の中で最古の歴史と伝統を持つ麻酔科学ですが、全身麻酔の作用機序はいまだ未解明です。そのため、覚醒した人間の意識を脳死と判別不能なまで変容させ、再び現実に戻す”全身麻酔”を安全に行うには、生理学や薬理学、病態生理学の知識を総動員しなければなりません。麻酔科医が救急治療や集中治療の学会や研究会を立ち上げ発展させたのは必然でもあります。

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本質的に物理的侵襲を伴う外科的治療の成否は、その侵襲の度合いが生体に対し相対的に過大ではないか、後遺障害を生じないかによって定まります。麻酔科医は、医師を含む関連各科のすべての医療者とともに、患者が無事に周術期を乗り越えるための方策の探求と実践に全精力を傾注します。本院では、近年の入院期間短縮と手術侵襲の縮小(内視鏡術など)に対応した麻酔法の採用や、確実で落ちのない術前評価のためのチェックリスト、安全な手術のためのチェックリスト(WHO)、リスクの高い患者さんや手術のための合同カンファランス(ハイリスク症例検討会)などを通じ、安全な周術期管理を目指し努力しています。

研修の実際

以下に、初期および後期研修の実際を詳細に述べます。(1) は初期研修での、(2) と (3) は後期研修での重要な目標です。

(1) 気道確保法

麻酔科研修の目的の大きな柱は基本的蘇生手技の習得ですが、なかでもバッグ・マスク換気が重要です。低酸素症や高二酸化炭素症の存在下で拙速に気管挿管を試みると逆に危険な事態に陥ることがあります。どんな状況下でもマスク換気が可能な自信と技術の獲得を目指します。

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喉頭鏡の適切な使用は極めて重要です。自発呼吸があれば喉頭展開だけで気道確保が可能で、直視下に口腔内を観察しつつ吐瀉物や異物があれば直ちに吸引除去できます。喉頭鏡の安全かつ確実な使用を身につけることがマスク換気に次いで重要な目標です。

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手術室では多くの場合、意識がなく筋弛緩薬が投与された状態で気管挿管を行います。救急医療の現場とは異なりますが、気管挿管の基本を安全に身につけるにはもっとも有効な方法です。フルストマックの患者では、喉頭反射を保ちつつ鎮静下に気管挿管を行いますが、この手技の習得は麻酔科研修の重要な目標であり、基本動作をしっかり身につけたうえで行います。その他、通常の気管挿管が困難な場合に備え、ラリンジアルマスクTMや、エアウエイスコープTM、McGRATHTM、気管ファイバースコープなどを用いた気道確保や気管挿管も修練します。

 (2) 麻酔管理

術中の麻酔科医の役割は、手術による侵襲から患者を防御し、物言えぬ患者の代弁者となることです。麻酔の導入と覚醒は、しばしば飛行機の離陸と着陸にたとえられます。しかしその間にあっても、あらゆる知識と冷静な判断で、いかなる状況にも対処せねばなりません。麻酔管理は、超急性期における病態の理解と対処の訓練そのものともいえます。また、最近は高齢者や全身状態不良の患者が手術を受ける機会も多く、区域麻酔(脊椎麻酔、硬膜外麻酔、神経ブロック)が注目されています。特に、エコーガイド下神経ブロックは安全性や鎮痛効果に優れ、本院でも積極的に施行しています。

(3) 生体モニタリング

安全な麻酔管理と超急性期病態の分析には、生体情報のモニタリングが欠かせません。これは全身麻酔以外の意識のある患者でも同様です。また、モニタリングのために侵襲的操作を行うことは最小限とすべきです。このため、パルスオキシメータや呼気二酸化炭素分圧測定器のほか、気管支ファイバースコープ、経食道エコー、動脈波形分析、BISモニタ、INVOSなどを適宜使用し、合理的科学的な麻酔管理を心がけています。
 

業績

いくら立派な機器を揃え感性を磨いても、医療の科学的論理的な遂行には日常的な訓練と知識のアップデートが必要です。麻酔科の後期研修では、生理学や薬理学の基礎の復習と、標準的および最新の知識や技術の修得は当然ながら、自ら仮説を立て検証し、(できれば英で)発表や論文にまとめて議論の俎上に載せることが重要な訓練となります。このため麻酔科では、各種ジャーナル、Origine8(グラフ)などを備えています。過去に島田市立総合医療センター麻酔科で行った臨床研究の成果を下記に記します。

論文

1. Harioka T, Matsukawa T, Ozaki M, Nomura K, Sone T, Kakuyama M, Toda H: “Deep-forehead” temperature correlates well with blood temperature. Can J Anesth47:9803, 2000
2. Harioka T, Nomura K, Mukaida K, Hosoi S, Nakao S: The McCoy laryngoscope,external laryngeal pressure, and their combined use. Anaesth Intensive Care 28:537-9,2000

学会

1. Harioka T, Ikegami N, Aoki T, Enoki Y: COPA Facilitates Gastroesophageal Reflux during Emergence from Deep Sedation in Patients under Spinal Anesthesia Even When the Cuff Was Deflated.
The 2002 ASA Annual Meeting, Orlando, October
2. Harioka T, Ikegami N, Aoki T: Inflated COPA Cuff Facilitates Gastroesophageal Reflux during Emergence from Deep Sedation in Patients under Spinal Anesthesia. The 2001 ASA Annual Meeting, New Orleans, October
3. Tanaka T, Harioka T, Torii Y, Satoh K, Furutani H: Arterial to End-Tidal CO2 Tension Difference Expands during Laparoscopic Colorectal Surgery.
The 2006 ASA Annual Meeting, Chicago, October
4. Okamura M, Harioka T, Hara T, Maruyama D, Sano K: Estimating the Location of the Radial Artery by Palpation Causes Deviation to the Radial Side.
The 2009 ASA Annual Meeting, New Orleans, October


文責:麻酔科

カテゴリー

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