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腹膜透析・血液透析について

透析患者さんの高齢化の影響

 腎不全患者さんの高齢化は年々進行しています。日本透析医学会の「わが国の慢性透析療法の現況(2023年)」によると、透析を開始した患者さんの年齢層で最も多いのは、男性が75~79歳、女性が80~84歳であり、透析患者さんの高齢化が著しいことがわかります。
このようにご高齢になると、多くの患者さんが糖尿病、心疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患、さらには悪性腫瘍など、複数の併存疾患を抱えておられます。要介護状態にある方も多く、元気な方であっても自家用車の運転が困難になるなど、移動手段が限られるケースが少なくありません。

血液透析(HD)の問題点

 日本で最も一般的な治療法である血液透析(hemodialysis:HD)は、週3回の通院が必要で、患者さんにとって大きな負担となっています。腎臓は本来24時間体内の老廃物を処理していますが、HDでは2〜3日に1回、4時間程度の治療で代行するため、数日分の毒素や余分な水分を一気に除去することになります。これにより、血圧の低下や体調不良を引き起こしやすくなります。また、厳格な水分・カリウム制限が求められることも、患者さんにとって大きな負担です。
HDでは動脈と静脈をつなげたシャント血管を作成する必要がありますが、このシャントによる血流の増加は心臓への負担を高めます。透析時には少なくとも2回、針を刺されるため、痛みも伴います。特に高齢の患者さんでは、腕の血管が荒廃していることも多く、良好なシャントの作成が難しい場合も少なくありません。シャントが作成できない場合は、埋め込み型のカテーテルを頸部の血管に留置し透析を継続することもあります。さらに、シャント血管が感染すると、血流に乗って細菌が全身に広がり敗血症に至る可能性があり、非常に危険です。特に人工血管を使用している場合、感染が起きると速やかな抜去が必要であり、遅れると命に関わることもあります。
なおHDを行うためには、4時間透析で1人あたり120 Lという膨大な量の水が必要であり、電力も必須です。災害時には非常に脆弱な透析方法といえます。

腹膜透析(PD)について

 こうした課題に対して、腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は有効な透析方法となります。PDは自宅で実施できる治療法であり、頻繁な通院が不要になります。腹腔内に透析液を貯留し、連日24時間かけて老廃物や水分を緩やかに除去するため、血圧の急激な変動を避けることができます。
個人差はありますが、一般的に尿量が比較的保たれるため、水分やカリウムの制限が緩和されることが多いです。PDではシャント作成が不要であり、心機能が低下している患者さんにも適しています。また、透析開始時に穿刺などは行わないため、痛みもありません。
さらに、自動腹膜灌流装置(APD:Automated Peritoneal Dialysis)を使用すれば、就寝中に集中的に透析を行うことが可能であり、朝と晩の2回の機械操作で済むため、日中働いている患者さんやご家族の介助によって治療を継続している場合でも有効な透析方法となります。
まれに腹膜炎を起こすことがありますが、多くの場合、腹腔内への抗生物質投与により2~3週間で改善し、命に関わるような敗血症に至ることはほとんどありません。
PDは用手的に回路を付け替えたり、落差で透析液の出し入れも行えますので、電力を全く使用しない方法も設定可能です。災害時に強い透析方法といえます。

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経皮的腹膜透析アクセス造設術(PPAP)

 PDを行うには、腹腔内にカテーテルを留置する必要があります。当科では、身体への負担が少ない「経皮的腹膜透析アクセス造設術(percutaneous peritoneal dialysis access procedure:PPAP)」を採用しています。この方法では、腹部を大きく切開したり、腹膜自体に直接触れることなく、ガイドワイヤーを用いてカテーテルを留置します。全身麻酔も不要です。
PPAPは特に高齢の患者さんに適しており、身体的負担が少ない状態でPDを開始することが可能です。ただし、腹部手術歴があり腹腔内に癒着を認める場合は、通常の外科的留置術を考慮します。当院では泌尿器科に相談をしております。

PDの問題点

 PDにもいくつかの課題があります。第一に、腹膜炎やカテーテル感染を繰り返す場合、腹腔内のカテーテルを抜去する必要があることです。ただし、PPAPによって留置されたカテーテルは抜去も容易であり、反対側の腹部に再留置しPDを継続可能です。
第二に、数年経過すると腎臓の残存機能が低下し、尿が出なくなることでPDのみでは十分な透析効果が得られなくなる場合があります。その際には、週1回のHDを併用する必要が出てきます。ただし、尿量が減少していても、高齢の患者さんでは自然に食事摂取量も少なくなることが多く、PDのみで体液バランスが保てる場合もあります。
第三に、長期間腹膜透析を継続することで腹膜が硬くなり腹膜硬化症を発症することがあります。腸閉塞を引き起こす怖い合併症ではありますが、近年腹膜への刺激性の低い中性液が使用されるようになり、発生頻度の低下が言われており、以前ほど心配する必要はなくなっています。

PDファースト、PDラスト、アシステッドPDについて

 「PDファースト」とは、尿量が保たれている透析初期からPDを開始し、数年後に尿量が減ってきた段階でHDを週1回併用したり、完全にHDへ移行する治療方針です。主に比較的若い患者さんを対象とした考え方です。
一方、高齢の患者さんにおいては、HDへ移行することなく、人生の最期までPDを継続する「PDラスト」が理想とされます。これに関連して、「アシステッドPD(assisted=支援)」の重要性が高まっています。これは、PDの手技(バッグ交換など)をご自身で行えない患者さんが、ご家族や介護施設のスタッフの支援を受けながらPDを継続する方法であり、高齢化社会において広く普及が求められる治療法です。

まとめ

 高齢患者さんにはPDが適していることは明らかであり、PPAPにより低侵襲でカテーテルを留置し、アシステッドPDを活用しながらPDラストを目指すことが、人生の最期まで穏やかに自宅や施設で過ごせる理想的な高齢者透析療法と我々は考えています。

   腹膜透析(PD)  血液透析(HD)
通院頻度 1回/月 13回/月
心臓への負担 なし あり
穿刺痛 なし 26回/月以上
感染 腹膜炎 敗血症
災害時 強い 脆弱

 

 


文責:腎臓内科

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